
M&Aノウハウ
最終更新日: 2026/9/18

M&Aで自社株を売却する際は、売却価格とともに、税金や費用を差し引いた後にいくら残るかを確認することが大切です。
個人の高額所得に追加の税負担を求める「ミニマムタックス」は、2025年分の所得税から適用されています。さらに、2027年分からは、計算に使う特別控除額が3億3,000万円から1億6,500万円へ、税率が22.5%から30%へ変更されます。 この改正により、自社株の売却で多額の利益が生じるオーナーは、従来よりも影響を受けやすくなります。
売却前に押さえたいポイントは、次の4点です。
この記事では、個人オーナーが保有する自社株を第三者へ売却するケースを中心に、制度の変更点、税負担と手取りの計算例、M&A前の確認事項を解説します。
ミニマムタックスは、極めて高い所得を得る個人について、通常の計算による税負担が一定の水準を下回る場合に、所得税を追加する仕組みです。正式には「特定の基準所得金額の課税の特例」といい、M&Aによる個人の株式譲渡益も判定に含まれます。
そのため、普段の役員報酬が高額でなくても、自社株を売却した年に大きな譲渡益が発生すれば、影響を受ける可能性があります。会社の規模や売却価格だけで判断せず、株主ごとに確認しましょう。
株式譲渡益は、原則として次のように計算します。
株式譲渡益=売却代金−取得費−譲渡に要した費用等
例えば、売却代金が6億円でも、取得費と譲渡費用の合計が1億円なら、譲渡益は5億円です。取得費の資料が残っているか、どの費用を差し引けるかによって計算結果が変わるため、売却価格が決まる前から資料を整理しておきましょう。
2026年度の税制改正により、ミニマムタックスの控除額と税率が見直されました。改正法は2026年3月31日に成立・公布されています。
項目 | 2025・2026年分 | 2027年分以降 |
|---|---|---|
特別控除額 | 3億3,000万円 | 1億6,500万円 |
計算に使う税率 | 22.5% | 30% |
比較額の計算 | (基準所得金額−3.3億円)×22.5% | (基準所得金額−1.65億円)×30% |
上記の比較額が基準所得税額を上回る場合に、差額を所得税に加算します。差額がゼロ以下なら、この特例による追加課税はありません。
変更が適用されるのは「2027年分の所得」からです。 2027年に行う2026年分の確定申告には、改正前の控除額と税率を用います。また、2027年から株式の売却益すべてに一律30%がかかるわけではありません。
基準所得金額には、株式譲渡所得に加え、給与所得や事業所得、土地建物の譲渡所得などを合算します。一定の上場株式の譲渡所得・配当所得は、確定申告不要制度を利用できる場合でも判定に含まれます。
「給与収入」と「給与所得」、「不動産の売却代金」と「譲渡所得」は異なります。各所得の計算を済ませたうえで合算することが必要です。
比較に使う基準所得税額は、単純に所得へ15%を掛けた金額とは限りません。現行制度では復興特別所得税を含み、2027年分以降は防衛特別所得税も含めて計算します。また、ミニマムタックスによって加算される所得税も、これらの付加税の対象になります。
住民税はこの比較に加えず、最終的な税負担を確認する際に別途計算します。
1億6,500万円は2027年分以降の計算に使う控除額です。所得がこの金額を超えても、比較額が基準所得税額以下であれば追加課税はありません。
財務省は、改正後について、所得のすべてが分離課税の場合に年間所得約3.4億円から追加負担が生じるイメージを示しています。ただし、これは一定の前提を置いた目安であり、会社の売却価格の基準ではありません。
同じ条件で自社株を売却した場合に、2026年分と2027年分でどの程度の違いが生じるかを試算します。以下は制度を理解するためのモデルケースであり、実際の成約事例ではありません。
項目 | 設定 |
|---|---|
売主 | 日本の居住者である個人株主1名 |
取引 | 非上場株式を第三者に売却 |
売却代金 | 6億円 |
株式の取得費 | 9,000万円 |
今回支払う譲渡費用 | 1,000万円(全額が控除対象と仮定) |
株式譲渡益 | 5億円 |
その他の所得・控除等 | 他の所得、所得控除、税額控除、繰越損失、特例はないものとする |
住民税 | 譲渡益の5%。均等割等は含めない |
2026年分は所得税に対する復興特別所得税2.1%、2027年分は復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%を考慮します。両年とも、この例での付加税の合計は所得税額の2.1%です。
計算項目 | 2026年分 | 2027年分 |
|---|---|---|
通常の所得税本税:5億円×15% | 7,500万円 | 7,500万円 |
基準所得税額:上記に付加税を加算 | 7,657.5万円 | 7,657.5万円 |
ミニマムタックスの比較額 | 3,825万円 | 1億50万円 |
所得税本税への加算額 | 0円 | 2,392.5万円 |
加算後の所得税本税 | 7,500万円 | 9,892.5万円 |
付加税込みの国税合計 | 約7,658万円 | 約1億100万円 |
住民税 | 2,500万円 | 2,500万円 |
国税・住民税の合計 | 約1億158万円 | 約1億2,600万円 |
2027年分の比較額は、(5億円−1億6,500万円)×30%=1億50万円です。ここから基準所得税額7,657.5万円を差し引くと、所得税本税への加算額は2,392.5万円となります。
さらに、加算後の所得税本税に復興特別所得税・防衛特別所得税を計算します。このため、2026年分と比べた税負担の増加は約2,443万円となります。
※国税庁の現行計算書と成立済みの改正内容に基づく独自試算です。税額・差額はそれぞれ計算した後に万円単位で四捨五入しています。申告時の端数処理等は省略しているため、申告納税額そのものを示すものではありません。
この例では、取得費9,000万円は過去に支払ったものと仮定しています。今回の売却で残る資金を考える際に、取得費をもう一度差し引かないようにしましょう。
比較項目 | 2026年分 | 2027年分 |
|---|---|---|
売却代金−今回の譲渡費用−税金 | 約4億8,842万円 | 約4億6,400万円 |
取得費も差し引いた税引後利益 | 約3億9,842万円 | 約3億7,400万円 |
同じ価格で売却しても、所得が帰属する年によって手取りに差が出る可能性があります。ただし、実際には役員報酬などの所得や取得費、控除等によって結果が変わります。ご自身の状況に合わせた試算が必要です。
シェアモルM&Aでは、会社売却や事業価値の算定について無料相談を受け付けています。想定売却価格や売却時期を整理したい方は、お気軽にご相談ください。個別の税額・税務上の取扱いは、顧問税理士等に確認しましょう。
まず、想定売却価格だけでなく、株式を取得した際の契約書や出資の記録、譲渡にかかる費用を確認します。自社株の評価額が上がっていても、含み益の金額だけで直ちにこの制度の納税額が決まるわけではありません。売却等によって生じる所得を見積もることが出発点です。
株式売却のほかに、役員報酬、配当、不動産売却、退職金などの予定があれば、まとめて税理士に伝えてください。判定には各所得の税務上の金額を使うため、受取額をそのまま足し合わせる方法では正しい試算ができません。
税負担の違いを把握したうえで、売却価格、買い手候補、従業員や取引先への対応、手続きに必要な期間を含めて検討します。
税負担を抑えようとして売却を急いでも、価格や条件が悪化すれば、最終的な手取りが減ることがあります。年末年始をまたぐ取引は、契約締結日・株式の引渡日・代金受領日を整理し、どの年分の所得になるかを契約前に確認しましょう。
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代金を分割で受け取ることと、株式そのものを複数年に分けて譲渡することは別の取引です。入金を分けるだけで所得も分散できるとは限りません。段階的に株式を譲渡する場合は、権利の移転時期や残りの株式に関する契約条件を確認する必要があります。
また、この制度は個人の所得税に関するものです。法人が株式を売却する場合でも、法人での課税や、その後に個人へ資金を移す際の課税を含めて検討する必要があります。税務上の評価を伴うため、売却直前の名義変更等を安易に進めず、専門家に取引全体を確認してもらいましょう。
関連記事:M&Aによる株式譲渡・事業譲渡の税金
株式売却後にスタートアップへの投資や起業を予定している場合は、エンジェル税制等の利用可能性を確認することも考えられます。ただし、投資先や投資家、投資時期などの要件があり、利用する措置によって効果が異なります。具体的な要件は経済産業省の案内を確認してください。
再投資には資金が必要で、投資損失のリスクもあります。税負担の軽減額だけで判断せず、売却後に確保したい資金と投資目的を整理しましょう。
背景には、高額所得者の所得に占める金融所得等の割合が高まることで、所得税負担率が低下する「1億円の壁」と呼ばれる問題があります。給与等への累進課税と、株式譲渡所得等への分離課税では税率の仕組みが異なるためです。
ミニマムタックスは、こうした税負担の公平性を図るために設けられました。「1億円の壁」という名称は、所得が1億円を超えると一律に追加課税されるという意味ではありません。
売却価格だけでは判断できません。売主の持分に応じた売却代金から取得費等を差し引き、その年の他の対象所得も含めて判定します。2027年分の控除額1億6,500万円を超えていても、必ず追加課税されるわけではありません。
一律30%にはなりません。30%はミニマムタックスの比較額を計算するための税率です。控除後の基準所得金額で計算した比較額が、基準所得税額を超える場合に追加課税が生じます。住民税等を含む最終的な税負担率とも異なります。
個人株主ごとに、その人の譲渡益や他の所得に基づいて判定します。会社全体の売却価格を、そのまま各株主の基準所得金額とするわけではありません。
法人が事業を譲渡する場合、その譲渡益は法人段階の課税を検討することになります。個人が自社株を売却する本記事の計算例は、そのまま使えません。売却代金を最終的に誰が受け取るかまで含め、スキームに応じた確認が必要です。
同じ条件で比較すれば、2026年分の方が税負担を抑えられるケースがあります。ただし、売却価格や条件、事業承継の準備状況も重要です。2026年分と2027年分の税引後の手取りを試算し、事業上の条件と合わせて判断してください。

2027年分からのミニマムタックスの見直しにより、自社株の売却で多額の利益が出る場合は、税負担と手取りを改めて確認する必要があります。
まずは、想定売却価格、株式の取得費、譲渡費用、同じ年の他の所得、売却希望時期を整理しましょう。そのうえで、税理士に税額の試算を依頼し、M&Aの進め方や買い手との条件交渉に反映させることが大切です。
シェアモルM&Aでは、会社売却・事業承継に関する無料相談と事業価値の算定を行っています。自社の売却価格の目安や、売却までの進め方を知りたい方はご相談ください。
※本記事は2026年9月18日時点で確認した公表資料に基づく一般的な解説です。個別の税額や所得の帰属年、特例の適用可否は、税理士等にご確認ください。
最終更新日: 2026/9/18
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齋藤 康輔シェアモル株式会社 代表取締役
東京大学教養学部基礎科学科在学中、半導体(シリコン)のシミュレーションを専攻する傍ら、 後に上場する株式会社ムービン・ストラテジック・キャリアにてインターンとして勤務。
在学中に人材会社向け業務システムを開発し、大学卒業後は同社初の新卒社員として入社。
2007年3月に共同出資でマッチングッド株式会社を設立し、同システムを「マッチングッド」として販売開始。
12年の経営を経て、2019年1月に東証プライム上場企業の株式会社じげんに株式譲渡。
2019年9月、売却資金を元手にシェアモル株式会社を設立。
自身のM&A経験を通じて、買い手と売り手の間にある情報の非対称性や、M&A仲介会社が提供する付加価値に課題を感じ、 自身が心から依頼したいと思える、付加価値の高いM&A仲介サービスを目指して、IT・AI技術をフル活用したM&A仲介事業「シェアモルM&A」を展開中。