
M&Aノウハウ
最終更新日: 2026/9/24

事業譲渡の価格は、譲渡する資産・負債の内容、事業の収益力、買い手が引き継ぐ条件などを踏まえて算定します。「売上の何倍」「利益の何年分」といった数字だけで、一律に決まるものではありません。
まず確認したいのは、会社全体の価値ではなく、どの事業を、どの資産や契約とともに譲渡するかです。同じ事業でも、不動産を含めるか、借入金を引き継ぐか、主要な取引が継続できるかによって、対価は変わります。
この記事では、法人が第三者へ事業の全部または一部を譲渡するケースを中心に、対価の算定手順、計算例、価格を左右する要素、税金・費用の考え方を解説します。
最初に、譲渡対象を一覧にします。在庫や設備だけでなく、売掛金、商標、システム、取引契約などを含めるかも確認しましょう。
例えば、店舗事業を売却する場合、建物も売るのか、賃貸借契約を引き継いで営業するのかによって、評価対象が変わります。会社全体の貸借対照表をそのまま使うと、売却しない資産まで計算に含めるおそれがあります。
負債も同様です。会社に残す借入金と、買い手が引き受ける負債を区別し、実際に承継できる条件を確認します。
帳簿上の金額だけでなく、在庫の販売可能性、売掛金の回収可能性、設備の状態などを確認します。
譲渡対象に売れ残った在庫や回収の難しい債権が含まれている場合、帳簿の金額と評価額が一致するとは限りません。不動産など金額の大きい資産は、必要に応じて専門家の評価を利用します。
価格算定では、過去の利益だけでなく、譲渡後も継続できる利益かどうかを確認します。
一時的な大口受注、臨時の修繕費、オーナーの退任に伴う費用の変化などを整理しましょう。オーナーの報酬がなくなるとしても、代わりの責任者の採用費用や人件費が必要なら、その負担を織り込む必要があります。
一部事業の売却では、本社の経理・人事・システム費用をどう配分するかも重要です。独立して運営した場合の費用を確認すると、買い手へ説明しやすくなります。
資産・負債を基礎とする方法、将来のキャッシュフローを用いるDCF法、類似企業や取引事例を参考にする方法などから、対象事業に適した方法を選びます。
前提が変わると評価額も変わるため、ひとつの数字だけでなく、利益や成長率などの条件を変えた場合の幅も検討しましょう。
算定結果は、売り手と買い手が価格を検討するための材料です。実際の対価は、デューデリジェンスで分かった事項や、支払時期、引継ぎ期間、追加負担なども踏まえて交渉します。
提示価格が高くても、支払いの一部が将来業績に連動している場合などは、全額を確実に受け取れるとは限りません。金額と条件をセットで比較することが大切です。
ここでは、譲渡対象の資産・負債に営業権の評価額を加える、簡便な考え方を紹介します。
差引支払対価の概算=譲渡対象資産の時価−買い手が引き受ける負債+営業権の評価額
営業権とは、顧客基盤、ブランド、ノウハウなどが支える収益力を評価する考え方です。この例では、その評価額を「調整後の営業利益×仮定年数」で仮置きします。
項目 | 説明用の設定 |
|---|---|
譲渡対象資産の時価 | 3,000万円 |
買い手が引き受ける負債 | 500万円 |
調整後の年間営業利益 | 800万円 |
営業権の計算に使う仮定年数 | 3年 |
営業権の仮置き額 | 800万円×3年=2,400万円 |
差引支払対価の概算・税抜 | 3,000万円−500万円+2,400万円=4,900万円 |
この例では、資産と営業権の評価額の合計は5,400万円です。そのうち500万円の負債を買い手が引き受け、残る4,900万円を現金で支払う前提です。消費税、仲介手数料、その他の調整は含めていません。
3年という年数は計算を説明するための仮定であり、市場相場や成約価格を示すものではありません。 実際には、利益の継続性、顧客や従業員の引継ぎ、設備投資の必要性などを確認します。
また、ここでいう営業権の仮置き額と、買収後の会計処理で確定するのれんは、必ずしも同じ金額にはなりません。
自社の価格を検討する際は、数字を式に当てはめる前に、譲渡対象と利益の前提を整理しましょう。シェアモルM&Aでは、事業価値の算定や事業譲渡について無料相談を受け付けています。
評価方法には、それぞれ得意な点と限界があります。
方法 | 主に見るもの | 注意点 |
|---|---|---|
時価純資産を基礎とする方法 | 対象資産・負債の時価 | 将来の収益力を別途検討する必要がある |
年買法などの簡便な方法 | 調整後利益と仮定年数 | 年数を一律に決めず、根拠を確認する |
DCF法 | 将来のフリーキャッシュフローの現在価値 | 事業計画、割引率、予測期間後の価値に左右される |
類似企業・類似取引との比較 | 類似する会社や事業の評価倍率・取引条件 | 規模、成長性、事業構成などの違いを考慮する |
評価方法は目的や対象に応じて選び、必要に応じて結果を比較します。評価アプローチの基本的な整理は、日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」でも示されています。
DCF法を使う場合は、利益とキャッシュフローを区別します。利益が出ていても、設備投資や運転資金に多くの資金が必要なら、事業が生み出す資金の見通しは変わります。
また、DCF法などで営業用資産の収益力を含めて評価した後に、同じ資産や営業権を機械的に加えると、価値を二重に計上するおそれがあります。異なる方法の計算結果をそのまま足し合わせないようにしましょう。
詳しくは、M&AにおけるDCF法の考え方と割引現在価値の計算方法をご覧ください。
同じ利益水準でも、引継ぎ後の事業の見通しによって、買い手の判断は変わります。価格交渉に備え、次の事項を整理しておきましょう。
確認する事項 | 整理しておきたい内容 |
|---|---|
売上・利益の継続性 | 継続契約と単発受注の割合、直近の業績変化 |
顧客への依存 | 特定顧客に売上が集中していないか、取引継続の見通し |
人材と経営者への依存 | キーパーソンの役割、経営者が退任した後の運営体制 |
契約・許認可 | 承継や再取得に必要な条件、手続き、期間 |
追加投資・引継ぎ費用 | 設備更新、システム移行、採用などに必要な費用 |
買い手との相乗効果 | 販路拡大や仕入れの改善など、実現可能性を説明できる効果 |
契約条件 | 一括・分割払い、業績連動部分、引継ぎ義務など |
強みだけでなく、引継ぎ時の課題と対応策も説明できる状態にすると、買い手が判断するための材料がそろいます。価格を高く見せるために一時的な利益だけを強調するより、継続性を裏付ける資料を用意することが大切です。
事業譲渡は対象事業に含める資産や契約などを取引する方法、株式譲渡は会社の株式を取引する方法です。法人が事業を売る場合と、個人株主が自社株を売る場合を比較すると、次の違いがあります。
比較項目 | 法人による事業譲渡 | 個人株主による株式譲渡 |
|---|---|---|
売却対象 | 合意した事業・資産など | 株主が保有する株式 |
代金を受け取る人 | 売り手法人 | 売却した個人株主 |
価格検討の対象 | 譲渡範囲に含まれる資産・負債・収益力 | 対象会社の株式価値 |
借入金の扱い | 買い手へ移すか、売り手に残すかを整理 | 原則として対象会社に残り、株式価値の評価に影響 |
契約の扱い | 契約ごとに承継方法・条件を確認 | 契約主体の会社は同じ。ただし支配権変更条項等を確認 |
株式価値の検討では、事業の価値に加えて、余剰現預金や有利子負債などを調整する考え方があります。この調整を、事業譲渡の価格へそのまま当てはめることはできません。まず「何を売る価格なのか」をそろえて比較しましょう。
法人が事業を売却した場合、その代金は法人の資金です。オーナー個人が同額をそのまま受け取るわけではありません。
法人に残る資金を見積もる際は、税金、仲介手数料などの費用、売却代金から返済する借入金の有無も確認します。その後、法人から個人へ資金を移す場合は、方法に応じた別の税務検討が必要です。
また、税金の計算で使う資産の帳簿価額と、今回実際に支払う費用は別です。税務上の利益計算と現金の手残り計算を混同しないようにしましょう。
事業譲渡では、課税対象となる設備や営業権などと、非課税となる土地などを区分して考えます。課税事業者による取引でも、譲渡価格全体に一律に消費税がかかるわけではありません。
国税庁は、事業に関する資産・負債を一括して譲渡する場合、課税資産と非課税資産の対価を合理的に区分する扱いを示しています。
負債を引き受けてもらう場合も、差引支払額だけで消費税を計算できるとは限りません。資産別の対価、適用税率、税込・税抜の条件を契約前に確認しましょう。
日本の居住者である個人が株式を売却する場合、2026年分の通常の課税では、譲渡益に対して所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%が基本です。ただし、高額所得者に関する特例などは別途確認が必要です。
個人の高額所得に関するミニマムタックスは、2027年分から計算に使う控除額が3億3,000万円から1億6,500万円へ、税率が22.5%から30%へ変更されます。株式売却益へ一律30%が課されるという意味ではありません。
法人による事業譲渡へ、この個人向けの計算をそのまま使うことはできません。売却方法を比較する場合は、売主、代金の受取人、所得が生じる年をそろえて検討しましょう。
詳しくは、ミニマムタックスとM&A・株式売却の税負担をご覧ください。
資料 | 確認する内容 |
|---|---|
直近2〜3期の決算書・申告書、直近の試算表 | 収益と財務の推移 |
対象事業の月次売上・損益 | 季節変動、一時的な損益、会社全体との切り分け |
資産・負債の一覧 | 譲渡対象と会社に残す項目 |
主要な取引契約・賃貸借契約 | 契約条件と引継ぎの見通し |
従業員の配置・人件費に関する資料 | 譲渡後の運営体制と必要費用 |
事業計画・設備投資計画 | 将来の売上・利益・資金需要 |
初期段階では、譲渡したい事業の範囲、売却希望時期、希望価格を整理しておくと、相談時の論点が明確になります。取引先や従業員の詳細情報は、守秘義務や開示範囲を確認しながら段階的に共有しましょう。
すべての事業に共通する年数はありません。利益に一定年数を掛ける方法は簡便な目安のひとつですが、利益が継続する見通しや必要な投資、譲渡条件によって評価は変わります。用いる利益の定義と年数の根拠を確認しましょう。
赤字だけで売却可否は決まりません。譲渡可能な資産や技術、顧客基盤、買い手との組合せによる改善可能性などが検討材料になります。ただし、価値が付くことや成約を保証するものではなく、引継ぎ費用が評価額を上回る場合もあります。
必ずしもそうではありません。営業権の評価が付かなくても、譲渡する設備や在庫などに価値があれば、対価が発生する可能性があります。引き受ける負債や必要費用も含めて判断します。
事業譲渡では、会社全体の借入金を一律に差し引くわけではありません。譲渡対象と評価方法、買い手が引き受ける負債を確認します。会社に残る借入金を売却代金で返す場合は、売却価格とは別に、売り手側の資金計画として整理します。

価格算定の出発点は、売却する事業と資産・負債の範囲を明確にすることです。そのうえで、継続的に見込める利益、必要な投資、買い手が引き継ぐ条件を整理します。
算定額がそのまま成約価格になるとは限らず、売却価格と税金・費用を差し引いた後の資金も異なります。金額の根拠と取引条件を確認しながら、売却に向けた準備を進めましょう。
シェアモルM&Aでは、事業譲渡・会社売却に関する無料相談と事業価値の算定を行っています。自社の事業をどのように評価するか、売却に向けて何を準備するかを知りたい方は、ご相談ください。
※本記事は2026年9月22日時点で確認した公開情報に基づく一般的な解説です。計算例は説明用の仮定であり、成約価格を保証するものではありません。個別の税務上の取扱いは税理士等にご確認ください。
最終更新日: 2026/9/24
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齋藤 康輔シェアモル株式会社 代表取締役
東京大学教養学部基礎科学科在学中、半導体(シリコン)のシミュレーションを専攻する傍ら、 後に上場する株式会社ムービン・ストラテジック・キャリアにてインターンとして勤務。
在学中に人材会社向け業務システムを開発し、大学卒業後は同社初の新卒社員として入社。
2007年3月に共同出資でマッチングッド株式会社を設立し、同システムを「マッチングッド」として販売開始。
12年の経営を経て、2019年1月に東証プライム上場企業の株式会社じげんに株式譲渡。
2019年9月、売却資金を元手にシェアモル株式会社を設立。
自身のM&A経験を通じて、買い手と売り手の間にある情報の非対称性や、M&A仲介会社が提供する付加価値に課題を感じ、 自身が心から依頼したいと思える、付加価値の高いM&A仲介サービスを目指して、IT・AI技術をフル活用したM&A仲介事業「シェアモルM&A」を展開中。