所在地
栃木県日光市(奥日光)
創業
前身の宿を含め約150年(現ホテルは約50年)
規模
敷地約7,000㎡/3階建て・全44室
スキーム
株式譲渡
所在地
東京都渋谷区
事業内容
ライフスタイルホテルの開発・運営、ソーシャルアパートメント運営 ほか
規模
売上高101億円/従業員約850名(2025年3月期)
代表者
代表取締役 山崎 剛 様

今回は、株主として、またウェブ・経営の両面から長年ホテルを支えてこられた長野様に、M&Aをご検討された背景や当時の不安、実際に進めてみて感じたこと、そして成約後の率直なお気持ちまでお話を伺いました。
大学卒業後、大手証券会社に勤務。アメリカでの生活を経て帰国後、2004年にウェブ制作会社を起業されました。その後、縁あって奥日光小西ホテルのウェブコンサルティングに携わり、女将の逝去をきっかけに、ウェブにとどまらず設備や経営全般のアドバイスへと関わりを深めていかれます。2020年には自社・個人で株式の大半を引き受け、株主としてホテルを支えてこられました。
証券会社からウェブ、
そして老舗ホテルのオーナーへ
もともとは大手証券会社に勤めていましたが、結婚を機に退職し、その後アメリカで2年ほど暮らしました。現地では、主婦であっても多くの人が自分の職業を持っていて、「あなたは何をしている人?」と聞かれたときに何も答えられなかったことが、とても恥ずかしかったのを覚えています。
帰国後、知人たちと一緒に立ち上げた事業の中で、当時まだ広まり始めたばかりだった「ホームページ制作」の依頼を受けたことがきっかけでした。やったことはありませんでしたが「できます」とお答えし、そこから独学で学びながら形にしていきました。2004年にウェブ制作会社を起業し、その数年後に縁あって奥日光小西ホテルと関わり始めました。
当初はウェブコンサルティングが中心でしたが、2014年に女将が亡くなり、設備や経営面についてもアドバイスをするようになっていきました。2020年からは、それまでの株主であった投資会社が事業を整理することになり、転売などへの不安もあったことから、私の会社で株式の一部を引き受けました。最終的には、私の会社と個人で株式の大半を保有する形となりました。
小西ホテルそのものの歴史は古く、150年以上前に日光東照宮の改修に携わった人々が宿泊した宿が発祥と伝えられています。その流れを汲み、約50年前に現在の奥日光の地にホテルが建てられました。
M&Aを考え始めたきっかけは
「設備の老朽化」と「将来への不安」
M&Aをご検討され始めた背景を教えてください。
一番大きかったのは、設備の老朽化です。建物が50年近く経ち、一つ直すとまた次が出てくる、という状態で、売上を上げても修繕費用で出ていってしまう。これはもう部分的な修理ではなく、大規模に全体を直さなければ立ち行かないと感じました。
ただ、コロナ禍の影響もあり、自分たちだけでそれだけの資金を用意するのは現実的ではありませんでした。料理や接客の評価は高かったのですが、設備の古さが全体の評価を下げてしまう。だからこそ、資金力のある会社に引き継いでいただくM&Aしかないと考えるようになりました。
M&Aを検討するうえで、不安や迷いはありましたか。
ありました。何しろ150年続く老舗ですから、自分の代で暖簾や名前がなくなってしまうかもしれない、という不安は大きかったです。創業家のご親族には多少の申し訳なさもありました。
もう一つは、かつてテレビドラマなどで見た「M&Aで従業員がすぐに辞めさせられてしまう」というイメージです。最初はどうしても怖さが先に立ちました。最近はそうしたことはないと後から知りましたが、当時は先入観があり、「自分が勝手に決めてしまっていいのか」という迷いがありました。
親族承継・従業員承継を
選ばなかった理由
親族や従業員への承継は検討されましたか。
土地は約7,000㎡、3階建て44室という規模ですので、個人が株式を引き受けて運営していくような規模ではありません。実際に株主だった私自身でも、これ以上は難しいと感じていました。資金の問題だけでなく、多岐にわたる幅広い知識も必要で、個人が背負うのは無理だと考えました。
また、周辺には大手企業の傘下に入ったホテルが数多くあります。そうしたホテルと競争していくには、億円単位の規模で大規模に建て替え・改修を行えるだけの体力が必要です。個人が少しずつ手を入れるレベルでは、とても立ち行きません。競争力を保つためにも、資金力のある会社に保有していただく必要があると判断しました。
ご自身のご家族への承継は考えられませんでしたか。
そこは考えませんでした。今回のM&Aで私自身が苦労したように、このホテルに関する膨大な情報や手続きを個人にすべて引き継ぐというのは、現実的ではないと感じていたからです。
仲介会社へのイメージと、
シェアモルに相談した理由
当初、M&A仲介会社にはどのようなイメージをお持ちでしたか。
正直に言うと、専門用語を一気に並べられて押し切られてしまうのではないか、というイメージがありました。負けないようにと、事前にM&Aの用語や流れをかなり勉強したほどですが、それでも戸惑うことは少なくありませんでした。
以前、別の仲介会社にも相談されていたと伺っています。
はい。大手の上場もされていらっしゃるM&A仲介会社と一度お話を進めたことがありました。ただ、具体的な話が進まない中でM&A仲介契約だけを急がされ、契約内容について質問をしても、数カ月経っても回答をいただけませんでした。結果として、その対応に不信感が募り、自分の中で「ここは難しい」と区切りをつけました。
小西ホテルの株主は小規模法人と個人なので、成果報酬の手数料や着手金・中間金の負担は非常に重要でした。大手では手数料が高額になりがちで、その点も不安材料の一つでした。
そのような中で、シェアモルに相談してみようと思われたきっかけは何だったでしょうか。
小西ホテルの代表メールには、毎月のように仲介会社からご連絡が届いていました。その多くはホームページを確認したうえで対応していたのですが、シェアモルさんについては、完全成果報酬で着手金・中間金がなく、成果報酬の手数料の負担も小さかったことが大きな決め手でした。
株主が個人の場合、万が一契約直前で破談になったときに着手金・中間金を支払えるかどうかは切実な問題です。その点で、成果報酬型であることは非常にありがたい条件でした。
実際に面談されてみて、印象はいかがでしたか。
私はM&Aに対してさまざまな不安を抱えていましたが、その一つひとつをきちんと受け止めていただけたことが、何より大きかったです。細かい話にも丁寧に耳を傾けていただき、安心してお任せできそうだと感じました。
また以前の大手の仲介会社は、全てのやり取りが電話だったので、振り返りが難しかったのですが、メールできちんとご回答いただけるので振り返りもしやすく、非常に安心感がありました。
契約期間についても、こちらの疑問にはきちんと答えていただけましたし、納得したうえで進めることができました。やり取りはこの先も長く続くものですから、しっかりコミュニケーションが取れる相手かどうかは、とても重要だと思います。
M&Aへの不安の一つひとつを
受け止めていただき、
安心してお任せできると感じました。
最近M&Aのプラットフォームも複数出てきております。仲介を使わず自分で譲渡先を探そうとは思いませんでしたか?
バトンズは興味本位程度に見てはおりました。
小西ホテルのような複雑な歴史あるホテルだと、自社について取りまとめられる気がせず、一人だと不安だったため、利用しようとは思いませんでした。

トップ面談と、買い手企業に
感じた「新しい風」
買い手企業様との初回のトップ面談での印象はいかがでしたか。
まず驚いたのは、買い手企業の社長ご本人が、単身で現地まで来てくださったことです。決裁権をお持ちの方に直接お伝えできる環境をつくっていただけたことは、本当に嬉しく、心強く感じました。
過去には、とても良い雰囲気で話が進んだのに、担当の方が社内に持ち帰った段階で破談になってしまったこともありました。社長ご自身が現地をその目で見て、その場で感触をつかんでくださったことは、成約に向けて非常に大きかったと思います。
買い手企業様のどのような点に魅力を感じられましたか。
事前にホームページを拝見し、これまでにない新しい事業をされている会社だと感じました。奥日光に新しい風を吹き込んでくれるのではないか、という期待がありました。
実際、ダイナミックプライシングのように、季節や需要に応じて大胆に価格を変える発想も持っておられ、これまでにはない取り組みでした。AIやITを活用して業務を効率化し、私たちが資金面でできなかったことを実現してくださるだろう、という期待が持てたのです。
社長は、現地を一通りご覧になっただけで『これはいけると思いますよ』とおっしゃっていました。豊富な資金力に加え、これまで多くのホテルを再生してこられた実績に裏打ちされた自信だったのだと思います。やはり、これだけの規模のホテルを任せるには、資金力のある会社でなければ難しいと、改めて感じました。
一度の見送りと、
譲渡条件・金額について
以前、別の企業様とのお話がデューデリジェンスの段階で見送りとなったこともあったと伺いました。率直にどのようなお気持ちでしたか。
デューデリジェンスでは多くの情報や資料をお渡しするための、とてつもなく多くの時間を使って準備や調査などを行います。それで見送りになると、もちろん徒労感はありました。ただ、相手がなぜ見送ったのかを考えることで『ここがポイントなのか』と気づくことができ、結果的には良い経験になったと捉えています。
そのときの経験から、設備にかかる費用に対してどれだけ補助金を活用できるかを、買い手企業様には特に丁寧にお伝えしました。近隣のホテルが国から数億円規模の補助金を受けた例もあり、カーボンニュートラル関連の補助金なども含めて積極的にご説明しました。改修も、絶対に必要な箇所と段階的に進められる箇所を分けて考える、という方針も共有でき、結果的に買い手企業様も同じお考えでした。
譲渡条件や金額は、当初のご希望と比べていかがでしたか。
買い手企業様には最大限のご評価をいただいたと感じております。純資産だけでなく、成長性やのれんといった部分も評価していただきました。
大切に育ててきた事業であり、苦労して経営を続けてきた経緯もくみ取っていただき、最大限のご評価をしていただいたことに、心から感謝しています。
雇用や従業員の処遇など、金額以外の条件はいかがでしたか。
従業員の雇用や処遇についても、しっかりと話し合うことができました。契約やデューデリジェンスの段階で、待遇や今後の働き方をきちんと先方様と固めておけば、不安はありません。最近のM&Aでは、従業員を置き去りにするようなことは基本的にない、ということも実感しました。
契約やデューデリジェンスの段階で、
待遇や働き方をきちんと固めておけば、
不安はありません。
ご家族にはいつどのように伝えましたか?ご家族の反応はいかがでしたか。
最終合意に至るまでは話していませんでしたし、守秘義務に抵触しないように、詳しい条件は今も伝えておりません。
スケジュール管理や論点整理、相手方との調整など、弊社に任せてよかったと感じた点はありますか。
M&Aのプロセスで様々なタスクが発生しましたが、シェアモルさんで細かくスケジュール管理をされていたように思います。
論点整理についても、何が重要か、何を優先すべきかを整理していただけたと思っております。
譲渡後に感じた一番のメリットは
「設備改修」と「働く環境の改善」
M&A全体を振り返って、率直にいかがでしたか。
良いか悪いかで言えば、100%良かったです。困ったことや悪かったことは、一つもないと言えるほどでした。
古い老舗ホテルゆえに、私自身も知らないことが多く、それを一つひとつ掘り起こしていく作業は大変でしたが、最終段階になって初めて『これがホテルの全貌だったのか』と理解できたほどです。行政に足を運んで確認や交渉をすることもあり、本当に勉強になりました。
具体的に、どのようなメリットがありましたか。
一番は、自分たちでは資金的に難しかった大規模な設備改修を行っていただけることです。これによって、新しい層のお客様にも来ていただけるようになるのではないかと期待しています。
従業員の待遇面も良くなったと聞いております。働き方も、担当を固定するのではなく、全員がさまざまな業務をこなせるようにし、誰が休んでも交代できる体制をつくろうとしてくださっています。AIやITによる業務効率化も進み、送迎バスの廃止や、当時は布団と併用していましたが、全室ベッドのみにしたことで高齢の従業員が重い布団を上げ下げする負担をなくすなど、現場の負担軽減にもつながっています。買い手企業様に対しての悪い評判を従業員から聞いたことがありません。
現在はティーザーサイトで完成予想図(パース)が公開されていますが、『どこのホテルかと思うほど』きれいに生まれ変わる予定です。若いお客様にも足を運んでいただけるホテルになると期待しています。
譲渡後の今──
経験を、新たな表現へ
譲渡後、現在はどのような活動をされていますか。
今は、動画制作やビジネスライティングといった、新しい表現の活動に取り組んでいます。
YouTubeチャンネルでは、ほぼ毎日のように動画を更新しています。
動画では、これまで培ってきたセールスコピーのスキル——その背景にある行動心理学の知識や、今回のM&Aで得た経験を、それとなく生かせるような内容を作りたいと思っています。心理学のテクニックで居酒屋の店長がだまされてしまうという動画は、240万回以上再生していただきました。
M&Aのご経験も、活動に反映されているのでしょうか。
せっかく経験し、学んだことを忘れてしまうのはもったいない。だからこそ、動画やコラムという形で残していきたいと思っています。
契約書を精査していたとき、シェアモルさんの担当の方が何度も口にされていた「バスケット条項」という言葉は、今でも耳に残っています。努力義務、損害賠償の上限——重要性を知らなければ通り過ぎてしまうけれど、M&Aにおいてとても大切な概念です。そうした学びをコラムにすると、思いのほか多くの方に重宝していただいています。
振り返って思うこと、そして
M&Aを迷うオーナー様へ
振り返って、「もっとこうしておけばよかった」と思われる点はありますか。
強いて言えば、契約書などの書類を日頃からデータ化しておけば良かったと思いました。私はほぼ一人で資料を整えましたが、これは本当に大変でした。近年の書類は問題ありませんが、古い会社では手書きの書類が数多く存在していることもあります。とくに創業の古い会社では、創業当時の書類も大切に残して、さらにデータ化しておくことが理想だと思います。
また従業員にM&Aの話をどのようにするかや、タイミングも難しかったです。どのように情報公開をしていくのかは、非常に重要だと思います。
最後に、事業承継やM&Aを迷っているオーナー様へメッセージをお願いします。
会社の規模によって事情は異なりますが、もし承継される方が株式を取得するだけの資金を持っていなかったり、個人保証のリスクを負わなければならなかったりするのであれば、慎重に考える必要があります。とくにホテルのように大きな資産を抱える事業では、万が一の際の原状回復などに多額の費用がかかることもあり、個人で全てを背負うのは非常に大変です。
今は、AI化や物価上昇など、事業環境が大きく変わる過渡期でもあります。先代ができたことを次の世代がそのまま続けられるとは限りません。もしM&Aの可能性が少しでもあるのなら、傷口が浅いうちに——借入が増える前、個人保証がつく前の早い段階で動くことが、本当に大切だと思います。
PMI(M&Aにおける経営統合)や従業員のことが心配だという声もありますが、そこは契約やデューデリジェンスの段階できちんと話し合い、待遇や働き方を固めておけば問題ありません。不安があるなら、まずはメリットやデメリットを聞くだけでもいいので、早めに仲介会社へ相談されることをおすすめします。
傷口が浅いうちに、
早めに相談されることが、
本当に大切だと思います。

本件は、150年以上の歴史を持つ老舗ホテルが、設備の老朽化と大規模改修という大きな課題を抱える中で、ブランドと従業員の雇用を守りながら次の担い手へと事業を託したケースです。
1年前のM&Aを振り返って「100%良かった」と断言されていたのが非常に印象的でした。
M&Aは、単に高く売るための手段ではなく、「誰に、どのような形で事業を託すか」を考える意思決定でもあります。資金面や設備面に不安を抱えるオーナー様ほど、「うちのような会社でも相談してよいのだろうか」と悩まれることが少なくありません。
他のオーナー様からもよく耳にしますが、早く動くことで取れる選択肢の数も増えます。今回のインタビューをご参考いただき、事業承継についてお困りごとがございましたら、我々シェアモルにお気軽にご相談いただけましたら幸いです。
