
M&Aノウハウ
最終更新日: 2026/10/16

「介護事業を続けたいけれど、後継者がいない」
「採用や資金繰りの負担が大きく、今後の経営に不安がある」
「職員の雇用と利用者様の生活を守りながら、施設を引き継ぎたい」
こうした課題を抱える介護事業者にとって、M&Aは事業を次の経営者につなぐ選択肢の一つです。
介護事業のM&Aでは、売却価格だけでなく、職員の継続勤務、利用者へのサービス継続、介護保険事業者としての指定や各種届出を一体で考えることが重要です。
本記事では、2025年の介護業界のM&A件数と公表された実名3事例を紹介し、売却・事業承継の進め方や注意点を解説します。
目次
介護事業・介護施設のM&Aとは、運営会社の株式や会社の持分、介護サービスを提供する事業などを第三者に引き継ぐことです。会社全体の承継に加え、特定の施設や事業所だけを譲渡する方法もあります。
検討対象には、有料老人ホーム、認知症高齢者グループホーム、デイサービス、訪問介護、居宅介護支援などがあり、訪問看護やサービス付き高齢者向け住宅を含めた承継も行われています。
ただし、サービス付き高齢者向け住宅の登録と、併設する介護サービス事業所の指定は区別して確認する必要があります。また、社会福祉法人や医療法人が運営する施設では、株式会社と同じ株式譲渡の方法は使えません。運営法人の種類とサービスの内容から、承継方法を整理します。
レコフデータが運営するマールオンラインの2026年10月2日公表記事によると、2025年の介護業界のM&Aは160件で、同記事では過去最多とされています。
出典:レコフデータ/マールオンライン「介護業界のM&A動向(4)」2026年10月2日公表。
対象として紹介されているのは、訪問介護・通所介護などの介護サービスや、有料老人ホーム運営などです。
この160件は、レコフデータの集計に基づく業界のM&A件数です。売却された施設数や事業所数、シェアモルM&Aの仲介成約件数を示すものではありません。また、未公表取引まで含む全国の全取引件数を意味するものではなく、別の集計機関の数値とは対象範囲や集計方法が異なる場合があります。
厚生労働省が2024年7月に公表した第9期介護保険事業計画に基づく推計では、必要な介護職員数は2026年度に約240万人、2040年度に約272万人とされています。2022年度の約215万人に対し、人材確保を継続的に進める必要があるという見通しです。
出典:厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」2024年7月12日
介護事業の承継を考える際は、現在の職員数だけでなく、管理者や有資格者の配置、採用費、離職の状況、経営者自身が担っている業務を確認します。買い手の採用・研修体制や管理部門を活用できれば、運営負担の軽減につながる可能性があります。
介護事業の買い手にとって、既存の事業所や地域との関係を引き継ぐことは、新たな地域でサービスを展開する方法の一つです。
例えば、後述するセントケア・ホールディングによる愛らいふサービスの買収は、大阪府北部の拠点を取得し、地域内の事業基盤を強めることを目的としていました。
出典:セントケア・ホールディング「愛らいふサービス株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」2025年5月1日
売り手は、自社の強みを売上や利益だけでなく、対応エリア、サービスの組合せ、職員の専門性、地域の医療機関等との連携状況も含めて整理することが大切です。
以下は、各社の公表資料に基づく業界事例です。シェアモルM&Aの仲介実績として紹介するものではありません。3件とも2025年に実行された取引であり、業界統計160件の内訳を独自に再集計したものではありません。
譲受企業 | 株式会社リビングプラットフォームケア |
|---|---|
譲渡企業 | テルウェル東日本株式会社 |
実行日 | 2025年1月15日 |
手法 | 事業譲渡 |
リビングプラットフォームは、連結子会社のリビングプラットフォームケアが、テルウェル東日本の高齢者グループホーム運営事業を譲り受けたと発表しました。
対象は、仙台市若林区の「テルウェルグループホームひなたぼっこ」1施設で、定員は17名です。契約締結日は2024年10月30日、譲受完了日は2025年1月15日と公表されています。
出典:リビングプラットフォーム「(開示事項の経過)当社連結子会社における事業譲受完了に関するお知らせ」2025年1月21日
会社全体を譲渡するのではなく、特定の介護施設の運営事業を切り出して承継した事例です。複数事業を営む会社が介護事業の一部を見直す場合にも、事業譲渡が選択肢となることを示しています。
譲受企業 | セントケア・ホールディング株式会社 |
|---|---|
対象企業 | 愛らいふサービス株式会社 |
実行日 | 2025年5月1日 |
手法 | 株式譲渡による全株式取得 |
セントケア・ホールディングは、愛らいふサービスの全株式を取得し、完全子会社化しました。
愛らいふサービスは、大阪府北部を中心に、居宅介護支援、訪問介護、訪問看護、デイサービス、グループホームなどを展開していた会社です。買い手は、それまで未展開だった大阪府北部に営業拠点を持ち、顧客基盤とサービス体制を強化することを取得の理由として挙げています。取得価額は非公表です。
出典:セントケア・ホールディング「愛らいふサービス株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」2025年5月1日
地域に根差した事業基盤を、買い手のサービス網の拡充につなげた事例といえます。
譲受企業 | 株式会社ツクイ |
|---|---|
対象企業 | 合同会社KIZUNA・絆 |
実行日 | 2025年11月28日 |
手法 | 持分取得 |
ツクイは、合同会社KIZUNA・絆の持分を取得し、完全子会社化しました。
KIZUNA・絆は、栃木県宇都宮市で、居宅介護支援の「ソーシャルワークきずな」と、訪問看護の「訪問看護ステーションきずな」の2事業所を運営しています。ツクイは、同社の強みを生かしたサービスの拡充を図るとしています。
出典:ツクイ「合同会社KIZUNA・絆の持分取得(子会社化)に関するお知らせ」2025年11月28日
施設型サービスだけでなく、居宅介護支援や訪問看護を担う事業者も承継の対象となることが分かります。対象が合同会社のため、取引の手法は株式取得ではなく持分取得です。
親族や社内に後継者がいない場合でも、第三者への承継によって事業を継続できる可能性があります。廃業によるサービス終了を避け、職員の働く場所や利用者の生活環境を維持することが交渉の重要な目的になります。
ただし、職員の雇用や待遇、施設名、提供サービスが自動的に維持されるわけではありません。継続したい条件を早期に伝え、契約内容と引継ぎ計画に反映させることが必要です。
買い手の採用窓口、研修制度、請求・労務管理の仕組みを利用できれば、現場や経営者の負担を軽減できる可能性があります。
一方、記録システムや就業ルールを急に変更すると、職員の負担が増えることもあります。どの業務をいつ統合するか、現場への説明と研修を誰が担当するかまで確認しておきます。
提示価格が高くても、介護の方針や人員配置の考え方が大きく異なる相手では、承継後の運営に摩擦が生じかねません。
職員の処遇、サービス品質、利用者・家族への対応、地域との関係をどう維持するかを話し合い、価格と承継条件を合わせて比較します。
介護事業の売却価格は、売上高や施設数だけで一律に決まるものではありません。将来の収益力に加え、人員体制、施設の状態、契約条件、買い手との事業上の相性などを総合して検討します。
複数の施設や事業所を運営している場合は、事業所別の売上、利益、人件費、稼働率を整理します。
経営者が低い報酬で管理者業務を担っている場合、承継後には代替人材の人件費が必要になることがあります。逆に、一時的な修繕費などが利益を押し下げている場合もあります。決算書の利益をそのまま使わず、承継後に継続して見込める利益を検討することが重要です。
これらは評価に向けた確認項目であり、条件を満たせば一定額で売却できるという基準ではありません。
土地・建物を所有している場合は、不動産を含めて譲渡するのか、運営事業のみを譲渡して賃貸するのかで条件が変わります。賃貸施設では、賃料、残存期間、更新条件、貸主の承諾が必要な事項を確認します。
また、会社全体の事業価値、株式の価値、事業譲渡の対価、経営者の手取り額は同じものではありません。借入金、現預金、税金、仲介手数料なども整理したうえで検討します。
株式会社の株式を買い手に譲渡し、会社の経営権を移す方法です。運営法人は存続するため、原則として同じ法人が雇用や契約の当事者であり続けます。
一方、過去の債務や潜在的な問題も会社に残るため、買い手による事前調査が重要です。代表者変更等の届出や、株主の変更を通知・承諾の対象とする契約条項の有無も確認します。
譲渡対象の事業、資産、契約などを定めて別の法人等へ移す方法です。一部施設だけを承継したい場合に検討されますが、雇用、利用者契約、賃貸借契約などを個別に整理する必要があります。
また、介護事業の指定がそのまま移るとは限りません。例えば堺市は、事業譲渡等によって運営法人が別法人へ変わる場合、変更届ではなく新規申請が必要と案内しています。
具体的な手続きは、サービスの種類と所在地の指定権者に確認し、承継日からサービスを継続できるよう日程を組みます。
加算の届出だけでなく、実際に算定要件を満たしているか、職員配置や記録との整合性を確認します。運営指導・監査の指摘、改善報告、返還の有無や対応状況も整理します。
問題がある場合は、内容や金額、改善状況を説明できるようにし、取引条件にどう反映するかを協議します。
介護事業では、職員の退職がサービス提供に直結します。管理者や有資格者の継続勤務の見込みを確認し、雇用条件や業務の変更内容を明確にします。
利用者や家族に対しては、運営体制、料金、担当者、緊急時の連絡先など、生活に関わる変更点を分かりやすく説明します。情報漏えいを防ぐ管理と、必要な説明・同意を得る時期の両方を計画することが大切です。
建物・設備の状態、消防・建築関係の資料、賃貸借契約、リース契約、修繕計画を確認します。
大きな修繕が近い施設では、承継後の支出が価格交渉に影響する可能性があります。修繕の予定や見積りを事前に整理しておくと、条件の認識違いを減らせます。
1.希望条件と資料を整理する
会社全体か一部事業かを検討し、希望時期、職員の雇用、施設名の維持などを整理します。決算書、月次試算表、事業所一覧、指定通知書、職員体制、入居率・利用実績などを準備します。
2.秘密保持のうえで候補先を探す
匿名情報で関心を確認し、候補先ごとに社名開示の可否を確認して詳細情報を開示します。利用者や職員の個人情報は、検討段階に応じて匿名化や開示範囲の制限を行います。
3.面談と条件交渉を行う
価格だけでなく、介護方針、職員の処遇、経営者の引継ぎ期間などを確認し、基本合意に向けて条件を整理します。
4.買収前の調査と行政手続きを進める
財務、税務、法務、労務、介護報酬、施設運営等を調査します。指定の新規申請や届出については、最終契約の締結直前まで待たず、早期に指定権者へ相談します。
5.最終契約を締結し、承継を実行する
調査結果を踏まえて契約条件を確定し、必要な承諾や手続き、決済、引渡しを行います。経営者保証がある場合は、金融機関との調整を含め、解除等の条件と実行状況を確認します。
6.承継後の運営を安定させる
職員配置、請求業務、利用者対応、システム移行などを確認します。承継直後の混乱を抑えるため、買い手と売り手の役割、連絡窓口、引継ぎ期間をあらかじめ決めておきます。
検討できます。実際に本記事の事例1は、グループホーム1施設の運営事業を承継した取引です。ただし、成立の可能性は、立地、収益、人員体制、契約や指定手続きなどによって変わります。
赤字の原因と改善可能性を整理することから検討できます。買い手の既存拠点との連携や管理費の見直しが考えられる場合もありますが、買い手が見つかることや希望価格での売却を保証するものではありません。
初期相談や匿名での候補探索は、開示範囲を限定して進めることができます。ただし、承継の実行に必要な説明や同意まで省けるわけではありません。交渉の進捗と現場への影響を踏まえて、適切な説明時期を決めます。
相談できます。親族内承継や社内承継と比較しながら、M&Aの可能性、準備すべき資料、引継ぎに必要な条件を整理することができます。

介護事業の承継では、価格と同時に、利用者の生活、職員の雇用、地域のサービス提供体制をどう維持するかが重要です。資金繰りや人員体制に余裕があるうちに準備を始めることで、候補先や承継条件を比較しやすくなります。
シェアモルM&Aでは、会社売却や事業承継に関するご相談を承っています。料金体系や中間金・成果報酬等の詳細は、個別にご案内しています。
「介護施設を引き継いでくれる相手を探したい」「自社が売却の対象になるか知りたい」とお考えの経営者様は、まずは現状とご希望をお聞かせください。
最終更新日: 2026/10/16
ミーティング時に貴社とシナジーのあるクライアントの概要をお伝えいたします。
無料で事業価値の算定も可能でございますので、まずはお気軽にご相談いただけましたら幸いです。
齋藤 康輔シェアモル株式会社 代表取締役
東京大学教養学部基礎科学科在学中、半導体(シリコン)のシミュレーションを専攻する傍ら、 後に上場する株式会社ムービン・ストラテジック・キャリアにてインターンとして勤務。
在学中に人材会社向け業務システムを開発し、大学卒業後は同社初の新卒社員として入社。
2007年3月に共同出資でマッチングッド株式会社を設立し、同システムを「マッチングッド」として販売開始。
12年の経営を経て、2019年1月に東証プライム上場企業の株式会社じげんに株式譲渡。
2019年9月、売却資金を元手にシェアモル株式会社を設立。
自身のM&A経験を通じて、買い手と売り手の間にある情報の非対称性や、M&A仲介会社が提供する付加価値に課題を感じ、 自身が心から依頼したいと思える、付加価値の高いM&A仲介サービスを目指して、IT・AI技術をフル活用したM&A仲介事業「シェアモルM&A」を展開中。